地球温暖化

研究概要(パンフレットから)

 長らく均衡を保ってきた地表の熱収支が、大気中の温室効果ガス(二酸化炭素、メタン、亜酸化窒素、フロン類など)の増加により自然の状態からずれた結果として地球の温暖化が起こります。地球の温暖化が急激に進むと、海水面の上昇だけでなく、生態系や食量生産にも大きな影響が現れると懸念されています。その影響の詳細を予測することが重要であり、研究を進める必要があります。

 また、地球温暖化の防止のためには、私たちのライフスタイルや社会経済構造そのものを見直すことも求められています。このため、納得のいく科学的な説明や公平な評価が必要であり、また総合的かつ効率的な対策のあり方を検討する必要があることから、より体系的な研究の推進が求められています。

温室効果ガスの物質循環

 人類は、石炭・石油の消費や森林伐採で大量の二酸化炭素を大気中に放出してきました。地球の陸域と海洋は、自然サイクルとして大気圏と二酸化炭素のやりとりをしており、放出された化石燃料に由来する二酸化炭素のほぼ半分を吸収してきました。この自然サイクルの大きさと今後の変化を明らかにすることが重要です。なぜならば、この自然サイクルの働きが強まるか弱まるかが、温暖化の進行を左右するからです。

 このプロジェクトでは、地球規模炭素循環を観測解析する研究を、地球環境研究センターモニタリング事業と協調して進めています。事業では、温室効果ガスの挙動を、地上観測点・船舶・航空機を用いる長期の立体的な観測網で観測しています(図1)。定期運航船による太平洋の広域観測結果からは、太平洋中緯度海域が二酸化炭素の大きな吸収源であることを明らかにしました。また、二酸化炭素高度分布測定、二酸化炭素炭素同位体比、酸素濃度測定などを通して、年々変化する陸域と海洋の二酸化炭素吸収量と気候の関係や、森林の二酸化炭素吸収量に関する研究を進めています。
太平洋上で観測した二酸化炭素緯度時間分布
図1 太平洋上で観測した二酸化炭素緯度時間分布
1998年のエルニーニョ時の増加率が全緯度帯で高いことが観測されました。


 また、このプロジェクトでは、陸域生態系における炭素吸収源機能を科学的に評価する研究に取り組んでいます。京都議定書においては、植林・森林管理等の炭素吸収源の人為的拡大活動が、各国の数値目標達成に関わる温暖化対策の一つとして認められました(図2)。しかし、かつてミッシングシンクとよばれた陸域生態系の炭素吸収機能には科学的に未解明な点がまだ多く残されています。特に、炭素吸収量を正確に評価する手法の確立は急務であり、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)等における国際的な検討も開始されています。 そこでこのプロジェクトでは、リモートセンシング手法と生態学的モデルを組み合わせて開発した炭素吸収量策定手法をベースとして、国内外の森林における炭素吸収源機能を評価するとともに、グローバルな吸収源活動にのポテンシャル評価やレジーム設計に関する研究に取り組んでいます。

森林植林活動・炭素吸収可能量
図2 2000年に新規植林活動を開始した場合の気候変動枠組み条約の第1約束期間(2008-2012年)における植林地1ha当たりの年間炭素吸収可能量(tC/ha/年)。 このプロジェクトで開発された生態学炭素吸収量評価モデル(TsuBimo)を用いて計算。

気候モデルによる温暖化の将来予測

 大気、海洋、陸域とそれらの相互作用を物理学的に表現する気候モデルを東京大学気候システム研究センターおよび地球フロンティア研究システムと共同して開発しています。 温室効果ガス排出の増加を海洋や陸域が吸収しきれずに、その大気中濃度が上昇すると、地球は温暖化します。一方で、人為起源のエアロゾル(大気中に浮遊する固体又は液体の物質)も増加していますが、これは日射を遮るため温暖化を抑制する冷却効果があります。 このプロジェクトでは温暖化予測の不確実性を減少させるため、より信頼性の高い気候モデルの開発を進めています。温室効果ガスとエアロゾルの増加を考慮して、気候モデルにより100年後までの地上気温の変化を推定しました。(図3)。 また、同時に降水量変化等の推定も行っています。地上気温や降水量の変化は、作物の耕作範囲等に大きく影響するため、温暖化の人間社会への影響を議論する際に、不可欠な情報となります。

気候モデルによる温暖化の将来の見通し実験結果
図3 気候モデルによる温暖化の将来の見通し実験結果
(21世紀末における地上気温の変化)。
IPCCの「多元化社会」シナリオを基に計算を行ったケースについて、1961〜1990年までの30年平均値をゼロとして示しています。
図中のグラフは横軸が西暦、縦軸が全球年平均した地上気温を、1961〜1990年までの30年間の全球平均値をゼロとして示しています。

地球温暖化による影響と必要な対策

 地球温暖化は世界の社会経済に大きな影響を及ぼし、その対策には大きな経済的負担が強いられると予想されています。特に、アジア太平洋地域において大きな被害が予想されていますが、一方で、この地域からの温室効果ガスの排出量が急激に伸びており、その対策が緊急の課題となっています。このため、アジア太平洋各国における温暖化による被害を的確に予測し、それを引き起こす温室効果ガス排出量の伸びと事前に対策を講じた場合の効果を体系的に明らかにすることが求められています。この要請に答えるため、アジア太平洋地域統合モデル(AIM)を開発しています。

 AIMは、温室効果ガスの排出・気候変化・その影響という一連のプロセスを総合分析できる計算機モデルです。このモデルは、各国や地域の経済活動や気候変動だけでなく、それがその国や周辺地域の社会経済に及ぼす影響についても検討できるため、各種対策を総合的に評価することが可能です。特に、中国を含むアジア地域からの二酸化炭素排出量の増加が予想されるため、この地域について重点的に研究を進めています。

 AIM排出モデルは、各種の技術の導入を考慮してエネルギー消費量を部門別に積み上げて推計するボトムアップ型のモデルと、市場均衡を基本にして長期的な経済活動の推移を予測するトップダウン型の経済モデルから成り立っています。これらを統合して、わが国において京都議定書を達成するために必要な温暖化対策税の税率や税率を軽減するするための方策、それらの経済影響を試算しています。(図4

地球温暖化対策推進大綱・シミュレーション
図4 『地球温暖化対策推進大綱』に基づいた気候変動枠組み条約の第1約束期間(2008〜2012年)におけるエネルギー起源二酸化炭素排出量1990年比 2 % 削減(破線)を達成するためのシミュレーションの実施。


 地球温暖化は、長期的な気温や降水量の変化となって現れるとともに、短期的な異常気象の発生頻度の変化となって現れ、自然生態系や社会経済システムに種々の影響を及ぼすことが予想されます。影響モデルでは、農業への影響、水資源・水需給への影響、植生への影響、 マラリアに代表される健康への影響などの予測を行っています。例えば、(図5)は2100年におけるコムギの作物生産性への気候変化影響を示しています。異なる適応策実施条件で生産性をシミュレートし、適応策の効果についての検討を行いました。 途上国においては、灌漑と機械化による生産性向上の潜在力があるため、将来予測される気候変化の悪影響の相殺が期待できますが(適応ケース)、適切な適応策が施されなかった場合には気候変化による生産性低下は深刻な者となることがわかりました(適応無しケース)。

作物潜在生産性の将来変化・コムギ
図5 適応の程度を勘案した作物潜在生産性の将来変化
(コムギ、2100年)
上:現状の気候条件を前提として推計したコムギの生産性
中:将来の気候条件下においても、現在栽培されている作物品種を継続的に栽培し、かつ現状と同時期に植え付けを行うケース(適応無しケース)
下:気象条件に応じて適宜作物品種・植付け時期の変更を行うケース(適応ケース)


地球温暖化プロジェクトのめざすもの

 地球温暖化問題は今、新しい局面を迎えています。2010年に向けた対策の方針を定めた京都議定書が国際的に合意され、その達成が緊急の課題になっています。また、京都議定書以降2020年から2030年を目指した対策のあり方について、国際的な議論が始まっています。さらに、今後一世紀にわたる長期的な対策のあり方が問われています。しかも、将来の気候変動予測やその影響予測における色々な不確実さを少なくしていくことが必要です。 地球温暖化問題は、巨大な不確実性を抱えながらも、現象解明から対策研究へとその重点を移しつつあります。

 この新しい局面に対応するため、これまで国立環境研究所での研究蓄積をもとにあらたな展開を図ろうとしています。このプロジェクトの特徴は、社会科学や工学に重点をおいた大規模モデルと自然科学に重点をおいた大規模モデルの統合及び、炭素循環研究と炭素吸収対策研究の統合にあります。これによって、京都議定書及びそれ以降の地球温暖化対策が、地球規模の気候変動とその地域的影響を緩和する効果を推計し、 中・長期的な対応方策のあり方を経済社会の発展の道筋との関係で明らかにすることができます。さらに、これらの対応方策をアジア地域の持続可能な発展に融合させる総合戦略について検討しています。

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独立行政法人 国立環境研究所より

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